2026.08.17
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無電解ニッケルめっきに含まれるリンと含有率による性質の違い|株式会社コネクション
素材にニッケルの皮膜を付着させるニッケルメッキの方法の一つに、通電せずに行える無電解ニッケルメッキがあります。
通電して行う電解メッキに比べて皮膜が均一で、耐食性や高耐摩耗性を実現させることができます。
一般的な無電解ニッケルメッキは、メッキプロセスの関係で、皮膜にニッケルだけでなくリンという物質が含まれます。
一言で無電解ニッケルメッキと言っても、実は皮膜に含まれるリンの含有率によって性質が異なります。
無電解ニッケルメッキが幅広く用いられる所以です。
本記事では、リン含有率ごとの性質、必要な機能別の選定例、具体的な用途事例などをご紹介します。
無電解ニッケルメッキの採用をご検討中の方は参考にしていただけると幸いです。
1.1. 無電解メッキとは
1.2. 無電解ニッケルメッキの主な特徴と用途
1.3. メッキのメカニズムとリンの共析
2. リンの含有率による特徴の違い
2.1. 低リンタイプ
2.2. 中リンタイプ
2.3. 高リンタイプ
3. リンとベーキング(熱処理)の相互作用
4. 重視する機能別のリン含有率選定例
4.1. 通常環境での耐食目的と高い寸法精度(標準仕様)
4.2. よりシビアな環境での耐食性や耐酸性
4.3. 高い耐摩耗性や硬度
4.4. その他の機能(非磁性、はんだ付け性、耐アルカリ性)
5. 代表的な用途設計例
5.1. 精密位置決めベースプレート
5.2. 化学プラントでの薬液パイプ
5.3. 高負荷のピストンシャフト
5.4. ハードディスク基板
6. ニッケル-リン以外の無電解ニッケルメッキ
7. 無電解ニッケルメッキを依頼する際の注意点(図示、指定法など)
8. まとめ

素材に金属の皮膜を付着させ、耐久性などを向上させるメッキ。
一般的によく使われるメッキは電解メッキといって、水溶液(メッキ液)中に電気を流して皮膜を付着させます。
一方で、メッキ液内に予め還元剤が含まれていて、それによって放出された電子を利用して皮膜を付着させる方法を無電解メッキといいます。
外部からの電気エネルギーは用いず、化学的にメッキを行う方法です。
電解メッキだとどうしても電極の位置などの影響で皮膜が不均一になりますが、複雑な形状の製品でも均一な皮膜が得られます。
また、プラスチックなどの電気を通しにくい素材の表面にもメッキすることができます。
無電解ニッケルメッキはその代表格ともいえる存在で、現在ではとても広く用いられています。

無電解ニッケルメッキは無電解メッキの方法で素材にニッケルの皮膜を付着させるものです。
無電解メッキであることから、複雑な形状素材にも均一な皮膜を生成します。
元々耐食性の高いニッケル皮膜が、無電解メッキのプロセスだとより緻密に付着し、素材を非常に錆びにくくしてくれます。
また、皮膜が硬く耐摩耗性も高いため、部品同士が接して動くような摺動部への適用も可能です。
このような性質から、ネジ部やギヤ、パイプ内部など形状的に電解メッキが困難なものにもよく用いられます。
他部品と接触するためにすり減りや傷などを抑えたいローラー、シャフト、金型などでの採用が多く、特に自動車や産業機械、ロボットなどの部品では重宝されています。
また、錆や薬品での腐食を嫌う海洋機器、化学環境の部品などへの採用もよく見られます。

無電解ニッケルメッキは、メッキ液内に素材を浸すことのみで、化学反応によって皮膜を付着させることができます。
メッキ液の構成は、主にニッケル要素を含んだニッケル塩(硫酸ニッケルなど)と素材から電子を放出させる還元剤です。
電解メッキの電気の役割は、還元剤によって放出された電子が担う形になりますが、この還元剤のうち、最もよく用いられるのは次亜リン酸ナトリウムです。
すると、化学反応が進む過程で副産物的にリンが析出されます。
このリンとニッケルが共析する形で皮膜の要素となるため、無電解ニッケルメッキの皮膜は純ニッケルではなく、ニッケルとリンの化合物になります。
したがって、純ニッケルが付着する通常の電解ニッケルメッキとは皮膜の性質そのものも少し変わります。
性質は、共析するリンの含有率によっても異なります。

無電解ニッケルメッキは皮膜に含有するリンの比率によって、低リンタイプ、中リンタイプ、高リンタイプに大別され、それぞれ性質が違います。
低リンタイプは、リンの含有率が1〜5%のものです。
3タイプの中では一般的な耐食性は劣りますが、耐アルカリ性は高いです。
また、析出の時点での硬度が最も高いのも大きな特徴です。
電気を通しやすく、はんだ付け性にも優れるため、電子部品などへの採用も多いです。
磁性が強いという特徴もあります。

中リンタイプは、リンの含有率が6〜9%です。
耐食性と硬度(耐摩耗性)がどちらも程よく備わっているタイプです。
どちらの性質も必要な用途の物も多く、そのようなときに幅広く利用されています。

高リンタイプはリンの含有率が10%を超えるものです。
3タイプの中で耐食性が最も高いです。
一方で、析出時の硬度は低くなります。
電気は通りにくく、磁石には全くつかない非磁性です。

無電解ニッケルメッキは、後処理としてベーキング(熱処理)を行うことがあります。
リンを含んだ無電解ニッケルメッキの場合、中リンタイプや高リンタイプのものを高温でベーキングすると、低リンタイプをも上回る極めて高い硬度の皮膜にすることができます。
ただし、この処理によって耐食性は低下します。
非磁性もなくなり、磁石につく性質になります。
熱によって素材が変形してしまうこともあるので、ベーキングはそのあたりの兼ね合いも考慮して採用を判断する必要があります。
なお、メッキ皮膜の密着性を向上させる目的で比較的低温でベーキングを行う場合もありますが、その温度範囲では大きな性質変化にはなりません。
このベーキングによる効果はニッケルとリンの皮膜ならではの現象で、電解ニッケルメッキでの皮膜硬化は起こりません。

リンの含有率によって皮膜の性質が異なるので、目的別にそれぞれのタイプを使い分ける必要があります。
無電解ニッケルメッキは多くの場合、製品の耐食性と耐摩耗性を強くしたいことを目的とすることから、その両方をバランスよく兼ね揃えている中リンタイプが最も汎用性が高いです。
まず、中リンタイプを通常環境の標準仕様として考えましょう。

使用シーンが海洋や化学環境の場合、とにかく塩水や酸に対する耐食性を重視したいことが多いです。
この場合、耐食性が高い高リンタイプがおすすめです。
膜厚を厚くするほど、耐食性も増します。
ただし、ベーキングしてしまうと耐食性が低下してしまうため、特段硬度を考慮しなくて良いのなら、ベーキングはしないで使用しましょう。

激しく他部品と接触する部品など、硬度や耐摩耗性を重視したい場合、選択肢が2つあります。
素材が一度高温になっても問題なく、とにかく最高レベルで硬度が欲しい場合、中リン(または高リン)タイプにベーキングを行うことがおすすめです。
素材が温度変化を嫌い、ベーキングをしたくない場合は、低リンタイプの選択となります。
比較すると、低リンタイプは中リンタイプ+ベーキングの組み合わせほどの硬度ではありませんが、それで十分な場合もあります。
なお、どちらも磁性があり、耐食性はやや劣ります。

重視する機能が他の性質の場合もあります。
対象に磁性を持たせたくない場合、非磁性の高リンタイプの採用になります。
この場合、ベーキングすると非磁性が崩れてしまうので、ベーキングなしで使用する必要があります。
電子部品などへの採用で、はんだ付け性を重視する場合、低リンタイプとなります。
また、高リンタイプは耐食性に優れているものの、アルカリには弱く、アルカリ性環境の使用の場合は耐アルカリ性の強い低リンタイプの方がおすすめです。

リン含有率ごとの機能特性を踏まえて、実際の用途設計例をいくつかご紹介します。
工場などの自動機に用いられる位置決め用のベースプレートは、長期間使用するだけの耐久性と、位置決めを正確に行うだけの寸法精度や幾何精度が最重要です。
一方で、高い負荷で部品同士が接触するわけではないため、低負荷での傷や摩耗が抑えられれば良いという程度で、最高レベルに硬度を上げる必要はありません。
このような使用の場合、バランス重視で標準仕様の中リンタイプが最適です。

化学プラントなどの使用環境の場合、薬品による腐食を抑えたいというのが重要な目的となります。
この場合は耐食性(耐薬品性)重視の高リンタイプが最適です。
せっかくの高耐食性が悪くなってしまうので、高温でのベーキングはせずに使用することが重要です。
また、使用環境がアルカリ性の場合に限っては、低リンタイプの方が適している場合もあります。

機械などに用いるピストンシャフトは他部材と接して激しく動く箇所で、表面処理をしておかないとすぐに消耗してしまいます。
このような場合に要求されるのは高い耐摩耗性で、そのために非常に硬い表面にする必要があります。
こういった部材は熱に強い材質で作られていることも多いため、このようなシーンでは多くの場合、中リンタイプをベーキングして最高硬度にします。

無電解ニッケルメッキはハードディスク基板に使われることもあります。
基板の素材は軽量で加工性も良いアルミニウムのことが多いのですが、アルミ素材のみでは表面が柔らかく、硬い表面にしておいて、精密でフラットな表面に仕上げることが重要で、そのためにメッキを行うのです。
そのようなメッキにはそれなりの硬度と寸法精度が必要で、無電解ニッケルメッキが最適です。
ハードディスクとして使用する際、磁性はデータ処理の邪魔になってしまうため、この場合は非磁性の高リンタイプを用います。

無電解ニッケルメッキは次亜リン酸ナトリウムという還元剤の影響でリンを共析することは既に触れましたが、次亜リン酸ナトリウム以外の還元剤を用いることで、リン以外の物質を共析させることなども可能です。
ジメチルアミンボランなどを還元剤にするとホウ素を共析し、この組成では熱処理をしなくても高硬度になります。
融点が高い、はんだ付け性が良いといった性質もあります。
ヒドラジンを還元剤にすると、リンやホウ素を含まない純ニッケルの皮膜にすることもできます。
通電しやすく、電子部品などに用いることがあります。
次亜リン酸ナトリウムにテフロンなどの微粒子を添加しておくことで、テフロン複合メッキという形にすることもできます。
テフロンの持つ潤滑性、撥水性なども付与することができます。

ここまで述べたように、無電解ニッケルメッキはさまざまなタイプに分かれ、それぞれに性質があります。
メッキを依頼する際も、用途によって重視する性質を見極め、そのタイプまで指定することが必要です。
中でも、膜厚、リン含有率、熱処理の有無ははっきりと意思表示しましょう。
下記はJIS記号による表示方法です。
ELP - [素地記号] / Ni-P [リン含有量] [膜厚] [熱処理記号]
例えば、無電解ニッケルメッキの鉄素材、皮膜はニッケルとリン(含有率7%)、膜厚15μm、350℃で熱処理と指定する場合、
ELP-Fe/Ni-P[7] 15 [350]
と表します。

本記事では、無電解ニッケルメッキに含まれるリンについて解説しました。
以下はそのまとめです。
・無電解ニッケルメッキは、還元剤の作用によって通電せずにメッキする方法で、還元剤の影響で皮膜にはニッケルの他にリンが共析する。
・無電解ニッケルメッキは、皮膜のリンの含有率によって、低リンタイプ、中リンタイプ、高リンタイプの3タイプに大別され、それぞれ性質が異なる。
・低リンタイプは硬度が高く、耐食性はどちらかといえば低い。
・中リンタイプは耐食性と硬度がバランスよく備わっており、標準仕様として用いる。
・高リンタイプは耐食性が高く、硬度はさほど高くない。
・メッキ後のベーキングによって、非常硬い皮膜を作ることも可能である。
・実際の使用シーンに合わせてリン含有率などを適切に選定することが重要である。
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通電して行う電解メッキに比べて皮膜が均一で、耐食性や高耐摩耗性を実現させることができます。
一般的な無電解ニッケルメッキは、メッキプロセスの関係で、皮膜にニッケルだけでなくリンという物質が含まれます。
一言で無電解ニッケルメッキと言っても、実は皮膜に含まれるリンの含有率によって性質が異なります。
無電解ニッケルメッキが幅広く用いられる所以です。
本記事では、リン含有率ごとの性質、必要な機能別の選定例、具体的な用途事例などをご紹介します。
無電解ニッケルメッキの採用をご検討中の方は参考にしていただけると幸いです。
index
1. 無電解ニッケルメッキとは1.1. 無電解メッキとは
1.2. 無電解ニッケルメッキの主な特徴と用途
1.3. メッキのメカニズムとリンの共析
2. リンの含有率による特徴の違い
2.1. 低リンタイプ
2.2. 中リンタイプ
2.3. 高リンタイプ
3. リンとベーキング(熱処理)の相互作用
4. 重視する機能別のリン含有率選定例
4.1. 通常環境での耐食目的と高い寸法精度(標準仕様)
4.2. よりシビアな環境での耐食性や耐酸性
4.3. 高い耐摩耗性や硬度
4.4. その他の機能(非磁性、はんだ付け性、耐アルカリ性)
5. 代表的な用途設計例
5.1. 精密位置決めベースプレート
5.2. 化学プラントでの薬液パイプ
5.3. 高負荷のピストンシャフト
5.4. ハードディスク基板
6. ニッケル-リン以外の無電解ニッケルメッキ
7. 無電解ニッケルメッキを依頼する際の注意点(図示、指定法など)
8. まとめ
1. 無電解ニッケルメッキとは
1.1. 無電解メッキとは

素材に金属の皮膜を付着させ、耐久性などを向上させるメッキ。
一般的によく使われるメッキは電解メッキといって、水溶液(メッキ液)中に電気を流して皮膜を付着させます。
一方で、メッキ液内に予め還元剤が含まれていて、それによって放出された電子を利用して皮膜を付着させる方法を無電解メッキといいます。
外部からの電気エネルギーは用いず、化学的にメッキを行う方法です。
電解メッキだとどうしても電極の位置などの影響で皮膜が不均一になりますが、複雑な形状の製品でも均一な皮膜が得られます。
また、プラスチックなどの電気を通しにくい素材の表面にもメッキすることができます。
無電解ニッケルメッキはその代表格ともいえる存在で、現在ではとても広く用いられています。
1.2. 無電解ニッケルメッキの主な特徴と用途

無電解ニッケルメッキは無電解メッキの方法で素材にニッケルの皮膜を付着させるものです。
無電解メッキであることから、複雑な形状素材にも均一な皮膜を生成します。
元々耐食性の高いニッケル皮膜が、無電解メッキのプロセスだとより緻密に付着し、素材を非常に錆びにくくしてくれます。
また、皮膜が硬く耐摩耗性も高いため、部品同士が接して動くような摺動部への適用も可能です。
このような性質から、ネジ部やギヤ、パイプ内部など形状的に電解メッキが困難なものにもよく用いられます。
他部品と接触するためにすり減りや傷などを抑えたいローラー、シャフト、金型などでの採用が多く、特に自動車や産業機械、ロボットなどの部品では重宝されています。
また、錆や薬品での腐食を嫌う海洋機器、化学環境の部品などへの採用もよく見られます。
1.3. メッキのメカニズムとリンの共析

無電解ニッケルメッキは、メッキ液内に素材を浸すことのみで、化学反応によって皮膜を付着させることができます。
メッキ液の構成は、主にニッケル要素を含んだニッケル塩(硫酸ニッケルなど)と素材から電子を放出させる還元剤です。
電解メッキの電気の役割は、還元剤によって放出された電子が担う形になりますが、この還元剤のうち、最もよく用いられるのは次亜リン酸ナトリウムです。
すると、化学反応が進む過程で副産物的にリンが析出されます。
このリンとニッケルが共析する形で皮膜の要素となるため、無電解ニッケルメッキの皮膜は純ニッケルではなく、ニッケルとリンの化合物になります。
したがって、純ニッケルが付着する通常の電解ニッケルメッキとは皮膜の性質そのものも少し変わります。
性質は、共析するリンの含有率によっても異なります。
2. リンの含有率による特徴の違い
2.1. 低リンタイプ

無電解ニッケルメッキは皮膜に含有するリンの比率によって、低リンタイプ、中リンタイプ、高リンタイプに大別され、それぞれ性質が違います。
低リンタイプは、リンの含有率が1〜5%のものです。
3タイプの中では一般的な耐食性は劣りますが、耐アルカリ性は高いです。
また、析出の時点での硬度が最も高いのも大きな特徴です。
電気を通しやすく、はんだ付け性にも優れるため、電子部品などへの採用も多いです。
磁性が強いという特徴もあります。
2.2. 中リンタイプ

中リンタイプは、リンの含有率が6〜9%です。
耐食性と硬度(耐摩耗性)がどちらも程よく備わっているタイプです。
どちらの性質も必要な用途の物も多く、そのようなときに幅広く利用されています。
2.3. 高リンタイプ

高リンタイプはリンの含有率が10%を超えるものです。
3タイプの中で耐食性が最も高いです。
一方で、析出時の硬度は低くなります。
電気は通りにくく、磁石には全くつかない非磁性です。
3. リンとベーキング(熱処理)の相互作用

無電解ニッケルメッキは、後処理としてベーキング(熱処理)を行うことがあります。
リンを含んだ無電解ニッケルメッキの場合、中リンタイプや高リンタイプのものを高温でベーキングすると、低リンタイプをも上回る極めて高い硬度の皮膜にすることができます。
ただし、この処理によって耐食性は低下します。
非磁性もなくなり、磁石につく性質になります。
熱によって素材が変形してしまうこともあるので、ベーキングはそのあたりの兼ね合いも考慮して採用を判断する必要があります。
なお、メッキ皮膜の密着性を向上させる目的で比較的低温でベーキングを行う場合もありますが、その温度範囲では大きな性質変化にはなりません。
このベーキングによる効果はニッケルとリンの皮膜ならではの現象で、電解ニッケルメッキでの皮膜硬化は起こりません。
4. 重視する機能別のリン含有率選定例
4.1. 通常環境での耐食目的と高い寸法精度(標準仕様)

リンの含有率によって皮膜の性質が異なるので、目的別にそれぞれのタイプを使い分ける必要があります。
無電解ニッケルメッキは多くの場合、製品の耐食性と耐摩耗性を強くしたいことを目的とすることから、その両方をバランスよく兼ね揃えている中リンタイプが最も汎用性が高いです。
まず、中リンタイプを通常環境の標準仕様として考えましょう。
4.2. よりシビアな環境での耐食性や耐酸性

使用シーンが海洋や化学環境の場合、とにかく塩水や酸に対する耐食性を重視したいことが多いです。
この場合、耐食性が高い高リンタイプがおすすめです。
膜厚を厚くするほど、耐食性も増します。
ただし、ベーキングしてしまうと耐食性が低下してしまうため、特段硬度を考慮しなくて良いのなら、ベーキングはしないで使用しましょう。
4.3. 高い耐摩耗性や硬度

激しく他部品と接触する部品など、硬度や耐摩耗性を重視したい場合、選択肢が2つあります。
素材が一度高温になっても問題なく、とにかく最高レベルで硬度が欲しい場合、中リン(または高リン)タイプにベーキングを行うことがおすすめです。
素材が温度変化を嫌い、ベーキングをしたくない場合は、低リンタイプの選択となります。
比較すると、低リンタイプは中リンタイプ+ベーキングの組み合わせほどの硬度ではありませんが、それで十分な場合もあります。
なお、どちらも磁性があり、耐食性はやや劣ります。
4.4. その他の機能(非磁性、はんだ付け性、耐アルカリ性)

重視する機能が他の性質の場合もあります。
対象に磁性を持たせたくない場合、非磁性の高リンタイプの採用になります。
この場合、ベーキングすると非磁性が崩れてしまうので、ベーキングなしで使用する必要があります。
電子部品などへの採用で、はんだ付け性を重視する場合、低リンタイプとなります。
また、高リンタイプは耐食性に優れているものの、アルカリには弱く、アルカリ性環境の使用の場合は耐アルカリ性の強い低リンタイプの方がおすすめです。
5. 代表的な用途設計例
5.1. 精密位置決めベースプレート

リン含有率ごとの機能特性を踏まえて、実際の用途設計例をいくつかご紹介します。
工場などの自動機に用いられる位置決め用のベースプレートは、長期間使用するだけの耐久性と、位置決めを正確に行うだけの寸法精度や幾何精度が最重要です。
一方で、高い負荷で部品同士が接触するわけではないため、低負荷での傷や摩耗が抑えられれば良いという程度で、最高レベルに硬度を上げる必要はありません。
このような使用の場合、バランス重視で標準仕様の中リンタイプが最適です。
5.2. 化学プラントでの薬液パイプ

化学プラントなどの使用環境の場合、薬品による腐食を抑えたいというのが重要な目的となります。
この場合は耐食性(耐薬品性)重視の高リンタイプが最適です。
せっかくの高耐食性が悪くなってしまうので、高温でのベーキングはせずに使用することが重要です。
また、使用環境がアルカリ性の場合に限っては、低リンタイプの方が適している場合もあります。
5.3. 高負荷のピストンシャフト

機械などに用いるピストンシャフトは他部材と接して激しく動く箇所で、表面処理をしておかないとすぐに消耗してしまいます。
このような場合に要求されるのは高い耐摩耗性で、そのために非常に硬い表面にする必要があります。
こういった部材は熱に強い材質で作られていることも多いため、このようなシーンでは多くの場合、中リンタイプをベーキングして最高硬度にします。
5.4. ハードディスク基板

無電解ニッケルメッキはハードディスク基板に使われることもあります。
基板の素材は軽量で加工性も良いアルミニウムのことが多いのですが、アルミ素材のみでは表面が柔らかく、硬い表面にしておいて、精密でフラットな表面に仕上げることが重要で、そのためにメッキを行うのです。
そのようなメッキにはそれなりの硬度と寸法精度が必要で、無電解ニッケルメッキが最適です。
ハードディスクとして使用する際、磁性はデータ処理の邪魔になってしまうため、この場合は非磁性の高リンタイプを用います。
6. ニッケル-リン以外の無電解ニッケルメッキ

無電解ニッケルメッキは次亜リン酸ナトリウムという還元剤の影響でリンを共析することは既に触れましたが、次亜リン酸ナトリウム以外の還元剤を用いることで、リン以外の物質を共析させることなども可能です。
ジメチルアミンボランなどを還元剤にするとホウ素を共析し、この組成では熱処理をしなくても高硬度になります。
融点が高い、はんだ付け性が良いといった性質もあります。
ヒドラジンを還元剤にすると、リンやホウ素を含まない純ニッケルの皮膜にすることもできます。
通電しやすく、電子部品などに用いることがあります。
次亜リン酸ナトリウムにテフロンなどの微粒子を添加しておくことで、テフロン複合メッキという形にすることもできます。
テフロンの持つ潤滑性、撥水性なども付与することができます。
7. 無電解ニッケルメッキを依頼する際の注意点(図示、指定法など)

ここまで述べたように、無電解ニッケルメッキはさまざまなタイプに分かれ、それぞれに性質があります。
メッキを依頼する際も、用途によって重視する性質を見極め、そのタイプまで指定することが必要です。
中でも、膜厚、リン含有率、熱処理の有無ははっきりと意思表示しましょう。
下記はJIS記号による表示方法です。
ELP - [素地記号] / Ni-P [リン含有量] [膜厚] [熱処理記号]
例えば、無電解ニッケルメッキの鉄素材、皮膜はニッケルとリン(含有率7%)、膜厚15μm、350℃で熱処理と指定する場合、
ELP-Fe/Ni-P[7] 15 [350]
と表します。
8. まとめ

本記事では、無電解ニッケルメッキに含まれるリンについて解説しました。
以下はそのまとめです。
・無電解ニッケルメッキは、還元剤の作用によって通電せずにメッキする方法で、還元剤の影響で皮膜にはニッケルの他にリンが共析する。
・無電解ニッケルメッキは、皮膜のリンの含有率によって、低リンタイプ、中リンタイプ、高リンタイプの3タイプに大別され、それぞれ性質が異なる。
・低リンタイプは硬度が高く、耐食性はどちらかといえば低い。
・中リンタイプは耐食性と硬度がバランスよく備わっており、標準仕様として用いる。
・高リンタイプは耐食性が高く、硬度はさほど高くない。
・メッキ後のベーキングによって、非常硬い皮膜を作ることも可能である。
・実際の使用シーンに合わせてリン含有率などを適切に選定することが重要である。





