
錫(スズ)メッキ
錫メッキは、古くから金属表面の保護や装飾に用いられてきた伝統的な表面処理技術です。
その優れた特性から、電子機器や自動車部品など、様々な分野で広く利用されています。
錫(スズ)メッキとは、錫の金属を溶かし込んだメッキ液に被メッキ物(メッキしたい製品)を浸し、電気を使いメッキしたい製品の表面に錫を薄く形成する電気メッキです。
錫は銀白色の柔らかい金属で、展延性に優れ加工しやすい性質を持っています。
錫メッキの種類
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無光沢錫メッキ
無光沢錫メッキは、粒子の粗い柱状の結晶で、外観は銀白色〜灰色の光沢の無い外観になります。
無光沢錫メッキの特徴としては皮膜硬度がHV5〜7と非常に柔らかく、折り曲げ等でクラックが発生しない事が特徴です。
また、ウイスカが発生しにくい事から、リードピッチの狭い部品のウイスカによる短絡事故を防ぐため無光沢錫メッキが多く利用されています。
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光沢錫メッキ
光沢錫メッキは、表面が滑らかで光沢があり、美しい外観を持つのが特徴です。
また、無光沢錫メッキに比べ皮膜硬度がHV40〜60と高いため、コネクターなど挿抜が求められる場合には光沢錫メッキがお勧めです。
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錫合金メッキ
錫合金メッキは、錫と他の金属を組み合わせた合金メッキです。
組み合わせの金属によって、錫単体とは異なる様々な特性を与えることができます。
代表的な錫合金メッキには、以下のようなものがあります。
光沢錫メッキ、無光沢錫メッキ、錫合金メッキ全て当社にて対応可能です。
錫メッキの優れた特性
耐食性
錫メッキは、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸などの有機酸に腐食されにくいため、鉄板にスズメッキを施したブリキとして缶詰、屋根、容器などに利用されています。
少し変わった耐食性の向上方法として、光沢ニッケルや無電解ニッケルメッキの上にスズメッキを施した後に熱処理を行う事でスズーニッケル金属間化合物を形成し、より耐食性を向上させる方法もあります。
はんだ付け性
錫メッキは融点が低く、他の金属と容易に合金を形成するため、はんだ付け性に優れています。チップ抵抗器やチップコンデンサーの電極に錫メッキを処理する事で実装時のハンダ接合性を向上させます。
潤滑性
錫メッキは潤滑性があるため、錫メッキを施すことで、摩擦を軽減し、潤滑性を良くすることができます。ベアリングなどの潤滑性を目的とした部品に使用することで、摩擦力が軽減されるため、摺動部の滑り性向上に有効です。
装飾性
光沢錫メッキは銀白色の美しい光沢のある外観になります。この外観を利用して装飾目的で錫メッキを施すこともあります。食器や仏具などの表面に錫メッキを施すことで、高級感のある仕上がりになります。
光沢錫メッキ以外にも、スズ-コバルト合金めっきやスズ-ニッケル合金めっきなどが装飾目的で使われる場合があります。スズ-コバルト合金めっきは装飾クロムめっき似た青白い色調、スズ-ニッケル合金めっきがピンクがかったシルバー色です。ニッケルアレルギー対策用ようとして銅-スズめっきなども実用化されています。
食品衛生
錫は、人体に毒性が無いため、食品や飲料と接触するような容器などにも安心して使用することができます。
毒性が無いだけでなく、「錫の杯は酒の毒を消す」「錫に入れたお水は腐りにくい」と言われるほど、錫には殺菌作用がある事が古くから知られています。錫メッキには錫同様の抗菌作用があるため、食品容器や食品製造機器などの表面に錫メッキを施すことで、食品衛生を向上させることができます。
RoHS対応
錫は、RoHS指令で規制対象となる有害物質を含まないため、欧州市場への製品輸出を容易にします。
錫メッキの欠点
錫メッキは、優れた導電性、耐食性、はんだ性などを有する一方で、いくつかの欠点も持ち合わせています。以下では、錫メッキの代表的な欠点について詳細に説明します。
融点が低い
錫メッキは、融点が232℃と低いため、高温環境で使用できないという欠点があります。例えば、高温になるエンジン部品や半導体製造装置などには使用できません。また、はんだ付け時の熱にも弱いため、高温のはんだを使用すると、錫メッキが溶けてしまう可能性があります。
柔らかい
錫は柔らかい金属であるため、摩擦や衝撃に弱く、傷がつきやすいという欠点があります。特に、硬い物質との接触や、頻繁な摩擦を受けるような環境では、すぐに傷が付いてしまいます。傷が付くと、そこから腐食が始まる可能性もあり、耐食性が低下してしまうという問題もあります。出荷の際にも製品を紙などで包んでしまうと輸送時の振動でメッキ面と紙が擦れて傷の原因となりますので、出荷時の梱包にも注意が必要です。
酸化しやすい
錫は空気中の酸素と反応して酸化しやすい金属です。そのため、酸化を防ぐために、表面に保護膜を形成する必要があります。しかし、保護膜は時間の経過とともに劣化するため、定期的なメンテナンスが必要となります。
ウイスカの発生
錫メッキは、表面にヒゲ状の錫単結晶であるウイスカが徐々に自然成長することがあります。ウイスカは短絡などの原因となるためウイスカの発生を抑制するメッキ処理が必要です。
錫メッキJIS規格(JIS H8619)
JIS H8619は、電気部品などのはんだ濡れ性、防食性などの向上の目的で金属素地上に行った有効面の電気すずめっきについて規定する。
注)電気めっきされた光沢または、無光沢もしくは電気メッキ後に溶融処理によって溶融光沢化されためっきを含む。