メッキにはそれぞれに特徴的な色があります。メッキの色はその種類を外観識別でき、さらに色そのものが製品の用途に合わせて機能を持つこともあります。
お客様に「無電解ニッケルメッキは何色ですか?」と尋ねられることがあります。通常の無電解ニッケルメッキの色は飴色のシルバー色です。ただしこの色は、電解ニッケルメッキの色ともよく似ているため、判別が必要なときには困ってしまうときもあるようです。
また、黒色無電解ニッケルメッキという黒色のパターンもあります。
本記事では、無電解ニッケルメッキの「色」に注目し、電解ニッケルメッキとの判別方法、黒色無電解メッキの特徴、無電解ニッケルメッキが変色してしまう条件と解決方法について解説してゆきます。
■INDEX■
・メッキするとどんな色になる?
・外観によるメッキの識別
・色による機能性への影響
・電解メッキと無電解メッキ
・無電解ニッケルメッキの色
・電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキを判別する方法
・黒色無電解ニッケルメッキとは?
・黒色無電解ニッケルメッキの用途と機能
・無電解ニッケルメッキが変色するとき
・熱処理とは?
・変色を防ぐ方法
1.さまざまなメッキの色
1.1.メッキするとどんな色になる?
メッキは、電気的化学的に金属の皮膜を付着させる表面処理方法です。表面にはメッキさせる金属が付いているため、表面の色は素地の色とは違う色になります。
また、メッキにもさまざまな種類があり、その種類によっても表面に現れる色はまちまちです。
メッキの種類による色の違いを利用して、メッキの種類を識別したり、メッキそのものを装飾に利用したりもできます。
1.2.外観によるメッキの識別
詳細な分析にはなりませんが、色などの外観である程度メッキの種類を識別できる場合があります。
例えば、ネジなどで用いるクロメート処理。「有色クロメート」と言われる処理を用いると黄褐色になり、「光沢クロメート」を用いるとシルバーに仕上がります。
前者は主に耐食性重視の場合、後者は装飾性重視の場合に用いることが多いのですが、時折、ネジの見た目でこれらの違いを簡単に識別することもあります。
1.3.色による機能性への影響
メッキの色はその製品の表面色になります。
多くの場合、メッキしたそのままだとシルバー系の色をしているものが多いですが、そのままだと外観的に適さない場合は着色をする場合もあります。
また、シルバー系の色だと光を反射しやすいという特性もあります。電子部品など一部の用途では、光を反射しない機能が望まれる場合もあり、そのようなときは光沢を抑えて反射性を減らすメッキの方法もあります。
一方で、金メッキや銀メッキなどは見た目の高級感があり、色による効果に注目が行きがちですが、防錆作用や貴金属ならではの物質としての安定性もメリットの一つになります。
本記事では特に無電解ニッケルメッキの色について、さらに詳しくご説明してゆきます。
2.無電解ニッケルメッキについて
2.1.電解メッキと無電解メッキ
ニッケルメッキには、電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキがあります。それぞれの特徴は以下のようなものです。
・電解メッキ
電解メッキとは、電解液にメッキしたい金属を浸した後、そこに電気を流して電気分解を利用するメッキ方法です。低コストでメッキ速度も速く、さまざまな金属へのメッキにも対応できます。その一方、複雑な形状のものをメッキしようとするとムラができてしまったり、ピンホールなどによる錆の発生が起きてしまうといった欠点もあります。
・無電解メッキ
無電解メッキは、薬品にメッキを浸した後に電気を流しません。薬品と金属の化学反応のみでメッキを行うのです。
無電解ニッケルメッキのメリットには以下のようなものがあります。
複雑な形状の物でも均一にメッキすることができる。
ピンホールも起きにくいので耐食性が高い。
硬い皮膜が生成され、硬度が高い。
摩擦によって擦り減らない(耐摩耗性が高い)。
例えば、電子部品のように精密で複雑な形状の物をメッキしたい場合、電解メッキではメッキ厚にばらつきが出てしまうなど、均一性が保たれにくいです。そのようなときは無電解メッキを採用することをお勧めします。
2.2.無電解ニッケルメッキの色
お客様から「無電解ニッケルメッキってどんな色?」と聞かれることがあります。一般的な無電解ニッケルメッキの色は飴色のシルバー色です。
素地の色と比較した写真を示します。写真左側の金属はただの鉄素材、右側は無電解ニッケルメッキ処理をしたものです。
こうやって比べてみると、無電解ニッケルメッキをすることで、飴色に色が変化することがわかります。
3.無電解ニッケルメッキの判別方法
実はこの無電解ニッケルメッキとよく似ていて、見た目で判別しにくいメッキの種類があります。それが先ほどご紹介した電解ニッケルメッキです。
電解メッキと無電解メッキ。同じニッケルメッキであっても実際は別物であることは既にご説明した通りです。見た目も同じで両方ニッケルメッキだからと言って、「どちらでもいい」というわけにはいかないこともあるでしょう。
3.1.電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキを判別する方法
見た目で判別しにくい電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキを判別しなければならないときは、薬品を使って化学的な方法を用います。
電解ニッケルメッキの試料と無電解ニッケルメッキの試料、両方に硝酸を一滴垂らしてみると、電解ニッケルメッキは灰色に、無電解ニッケルメッキは黒色に変わります。
写真は実際に電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキの試験片に硝酸を垂らしてみたものです。右側の無電解ニッケルメッキの試験片は黒色に反応しているのがわかります。
判別が必要な場合は有効な方法です。
4.もう一つの色、黒色無電解ニッケルメッキ
4.1.黒色無電解ニッケルメッキとは?
実は無電解ニッケルメッキには「飴色のシルバー」の他にもう一つ色があります。黒色です。
黒色無電解ニッケルメッキと呼ばれるこちらのメッキも、基本は通常の無電解ニッケルメッキと同様、電気を通さずに化学反応で表面の皮膜を生成します。通常の無電解ニッケルメッキを行った後、ニッケルを酸化物にすることにより黒色化します。
したがって、複雑な形状にも均一にメッキができることなど、無電解ニッケルメッキ自体のメリットは黒色の場合も同様です。
4.2.黒色無電解ニッケルメッキの用途と機能
黒色無電解ニッケルメッキの主な目的は意匠目的です。
従来も黒色の表面処理方法はいくつかありました。
例えば、黒クロムめっきなどが有名なのですが、従来の方法だとメッキ作業に伴って有害な六価クロムの使用や発生が起きてしまっていました。
無電解ニッケルメッキはその性質上、電子部品などにもよく使用される方法ですが、近年は環境的観点から、有害物質に対する規制も強いです。特に欧州では、RoHS指令という鉛や六価クロムに対する規制がされており、従来の方法はなかなか適用できません。
一方で、黒色無電解ニッケルメッキは六価クロムを発生せず、RoHSの基準にも適合した方法です。ですから、環境に配慮した黒色メッキと言うことができます。
なお、黒色無電解ニッケルメッキはその用途から、寸法公差の要求が厳しい場合も多いのですが、弊社では例えば、片側15±3μmで収めてほしいなどの要望にもお答えしております。
5.無電解ニッケルメッキの変色について
せっかくメッキしたものも、条件によっては変色してしまうことがあります。
特に装飾目的のメッキ品が変色してしまうのは残念なことです。装飾用のメッキの中には、空気や水分と反応して、経時に伴って変色してしまうこともありますので、注意が必要です。
5.1.無電解ニッケルメッキが変色するとき
無電解ニッケルメッキは、経時による変色はありません。ただし、300℃以上の熱処理を行うと、酸化して変色してしまいます。
無電解ニッケルメッキは、主に耐食性や硬度などを改善する機能面でのメッキですので、変色を伴っても熱処理を行う必要がある場合があります。
5.2.熱処理とは?
熱処理はニッケル-りんメッキ(Ni-P)について硬度を向上させる目的で行われることがあります。
一般的な無電解ニッケル-りんメッキは500HV程度の硬度ですが、300℃の熱処理によって750HV程度まで上げることができます。無電解ニッケルメッキにより、アルミニウムのような柔らかい材質のものを硬い表面に仕上げることができるのです。
5.3.変色を防ぐ方法
用途によっては、無電解ニッケルメッキの硬度を上げ、変色も防ぎたいという状況もあるかもしれません。そのようなときは、以下のような対応方法があります。
・熱処理温度を下げる。
熱処理温度を300℃より低くすれば変色は抑えられます。ただし、300℃の熱処理により硬度よりは低い硬度での仕上がりとなってしまいます。
・窒素雰囲気で熱処理を行う。
変色する原因は酸化によるものなので、熱処理の際の周囲の気体を窒素にする、いわゆる窒素雰囲気での熱処理は有効です。
・無電解ニッケル-りんメッキから無電解ニッケル-ホウ素メッキに変更する。
硬度目的の使用であれば、耐摩耗性もあり、硬度も高い無電解ニッケル-ホウ素メッキ(Ni-B)という方法を取ることも有効です。
6.まとめ
本記事では無電解ニッケルメッキの話を中心に、メッキの色について解説してきました。 以下、まとめです。
無電解ニッケルメッキの色は飴色のシルバー色である。
無電解ニッケルメッキと電解ニッケルメッキの色はよく似ているが、硝酸を一滴垂らすことで判別できる。
通常の無電解ニッケルメッキの他に黒色無電解ニッケルメッキもあり、主に意匠目的で使用される。
黒色無電解ニッケルメッキはRoHS指令の基準にも適合した環境に配慮した黒色表面処理方法である。
無電解ニッケルメッキは300℃以上の熱処理で変色するが、変色を防ぎたい場合の方法もある。
その他、無電解ニッケルメッキの色について疑問を持たれた場合は弊社までいつでもご相談ください。
お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609
【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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