「黒」という色には不思議な魅力があり、同時に特別な性質もあります。
身の回りの製品やその部品を眺めていると、黒色をしているものも多いです。
単に意匠性の目的で黒くなっているもの、光の特性などを考慮して意図的に黒くしているものなどさまざまです。そのような黒色の部品を作り出すのに必要な表面処理が黒色処理です。
黒色処理にはいくつか種類がありますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。
本記事では、その中でも黒色無電解ニッケルメッキについて、詳しく方法や特徴を解説します。
黒色無電解ニッケルメッキは、意匠性による黒色化のみならず、昨今需要が高まっている機能面での黒色化を実現するのにも有効な方法です。
部品の黒色化をご検討中の方などは参考にされてみてください。
■INDEX■
・黒色処理とは
・さまざまな黒色処理
・黒色処理の用途
・RoHS指令とは
・黒色処理とRoHS指令
・無電解ニッケルメッキとは
・無電解ニッケルメッキの一般的特徴
・黒色無電解ニッケルメッキの方法
・黒色無電解ニッケルメッキの特徴
・黒色無電解ニッケルメッキの優れている点
・黒色無電解ニッケルメッキの欠点
1.黒色処理
1.1.黒色処理とは
黒という色は、あらゆる可視光を吸収したものに見える色です。
表面が黒色であることは光の吸収や反射防止のような光学的な意味があり、さらに熱伝導性などの機能性を持つこともできます。もちろん、黒独特の魅力を生かした装飾目的で使用することもできます。
もともと色の付いた金属などの表面を、機能性や装飾性の目的で黒色に仕上げる技術を黒色処理といいます。
黒色処理の方法は1つではなく、用途や目的に応じてさまざまなものがあります。
1.2.さまざまな黒色処理
黒色処理の種類として主に挙げられるのは以下のようなものです。
黒クロムメッキ 金属の表面に黒色クロムの皮膜を付着させたメッキです。耐食性が良く、耐熱性も高いため高温でも見た目の変化がありません。 傷が付きやすいというデメリットもあります。 ただし、六価クロムを含有することがあり、その対策が必要です。
黒色クロメート 亜鉛メッキの後処理の一つです。 表面は美しい黒色を得られ、耐食性にも優れます。 ただし、この方法も六価クロムまたは三価クロムを含有することがあります。
黒色アルマイト アルミニウム素材の陽極酸化であるアルマイト処理の工程を利用し、表面を黒色化する方法です。アルミニウム素材に限定の方法ですが、耐食性や耐摩耗性にも優れます。
黒染め 鉄素材表面を化学反応させることで、表面に薄い黒色皮膜を作る方法です。 「染め」という名前ですが、実際に鉄を染色するわけではありません。 安価で黒色化できる一方、皮膜が薄いので耐食性はさほど期待できません。 また、皮膜が薄いことで処理後の寸法変化は僅かに収まります。
黒色電解ニッケルメッキ 通電に伴ってニッケルの皮膜を発生させる電解ニッケルメッキの一つです。 黒色はニッケルと亜鉛の合金によって得ることができます。 比較的安価で耐摩耗性は高い一方、耐食性はそれほど高くありません。
黒色無電解ニッケルメッキ 電極を用いない無電解ニッケルメッキの一つです。無電解ニッケルメッキの特徴である均一性、耐食性、耐摩耗性などもそのままに、外観は素材の光沢感を維持した黒色となります。 また、環境面でも優位性があります。
本記事では後ほど、詳しく黒色無電解ニッケルメッキをご説明します。
1.3.黒色処理の用途
黒色処理したものは、表面が黒色であることで光学的な機能性を持ちます。
冒頭に「黒」の原理を記したとおり、黒いことにより光を吸収し、反射を抑えることが可能で、黒色処理で最も多い目的は反射防止です。 黒色皮膜は、カメラやプロジェクターをはじめとした光学部品に機能性目的で用いられることが多い処理ですが、外観との整合のための意匠目的で使用される場合もあります。
2.黒色処理と環境問題
2.1.RoHS指令とは
さて、ここまでご紹介してきた黒色処理ですが、そのうちのいくつかは環境面での課題を含む方法となります。
キーワードはRoHS指令という環境に関する規制です。
RoHS指令は、2003年にEUが電気・電子機器についての有害物質を定めたもので、現在では環境規制の世界標準となっています。
つまり、どんなに機能的に優れていても、この規制に抵触するような環境問題を引き起こす物では、世界中どこでも使用に制限がかかってしまいます。
世界の人が協力し、地球の環境を守った上で成り立つのがテクノロジーですから、これは当然のことでしょう。また、使用することで健康に害を及ぼす可能性のある物質も規制対象です。
具体的に規制の対象として挙げられている物質は、鉛、カドミウム、水銀、六価クロム、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジイソブチル(DIBP)の10物質です。
2.2.黒色処理とRoHS指令
本記事の主題である黒色処理の一部には、RoHS指令で規制の対象となるものもあります。
黒クロムメッキや黒色クロメート処理は六価クロムを含有することがあり、対策が必要となります。
黒色クロメート処理の場合、対策として六価ではなく三価のクロムを用いることが有効です。
三価クロムは自然界にも存在する物質で、RoHS指令の規制の対象にはなりません。
黒クロムメッキにおいては、代替手段としてRoHS指令の規制物質を使用しない黒色無電解ニッケルメッキを活用することも有効です。
黒色無電解ニッケルメッキは、環境面で優位性のある表面処理法なので、機能性も含め本記事でも最もお薦めしたい黒色処理です。
3.黒色無電解ニッケルメッキ
3.1.無電解ニッケルメッキとは
ここからは、黒色処理の中でも優位性の高い黒色無電解ニッケルメッキについて、詳しくご紹介します。
一般的な無電解ニッケルメッキは、その名の通りニッケルメッキの一つです。
電解ニッケルメッキと異なり、電極を使用して通電に伴って皮膜を生成するメッキ方法ではなく、メッキ液内の電解液と素材との還元反応を利用したメッキ方法です。
つまり、メッキに伴う通電を必要とせず、化学反応のみを利用したものになります。
素材をメッキ液に浸すと、還元反応によって素材表面に皮膜が発生し、その後もその皮膜が成長してゆく形で反応が継続してゆきます。
一般的な無電解ニッケルメッキの皮膜の成分は、ニッケルとリンの化合物となります。
3.2.無電解ニッケルメッキの一般的特徴
このような方法で皮膜が生成されるため、当然皮膜は電極や電流の強さなどの影響を受けません。
電解ニッケルメッキであれば、電極からの素材の位置によって皮膜の厚さにムラが出てしまいますが、その心配はありません。
また、複雑な形状の素材であっても、あらゆる箇所に均一に高精度でメッキを行うことができます。
ピンホールといわれる穴の発生も起こりにくく、錆の発生も起こりにくいです。
リンの含有量によっても異なりますが、皮膜は耐食性が高く、しばしば素材の腐食防止の目的でも使用されます。
また、皮膜は硬度が高く、素材の傷つきを守ったり耐摩耗性が必要な素材へも広く適用されます。
3.3.黒色無電解ニッケルメッキの方法
無電解ニッケルメッキにおいて、その皮膜の色が黒色となっているのが黒色無電解ニッケルメッキです。
黒色無電解ニッケルメッキも、素材をメッキ液に浸し、電解液との還元反応で皮膜を成長させるというプロセスは、通常の無電解ニッケルメッキと同じです。メッキ後の後処理として、酸化処理を行って皮膜を黒色化します。
酸化処理を行う手段として、硝酸、塩酸、硫酸などを用いることが多いです。
酸化処理の条件によって黒色化の程度は異なります。
例えば、酸化剤の濃度が濃いほどより黒色化する、酸化温度が高いほどより黒色化する、酸化時間が長いほどより黒色化するといった具合です。
これらの組み合わせで黒さの程度も多少変わりますが、黒クロムメッキや亜鉛メッキのクロメート処理と同じ程度の黒さが得られます。
3.4.黒色無電解ニッケルメッキの特徴
黒色無電解ニッケルメッキも、基本的な性質は通常の無電解ニッケルメッキと大きく変わることはありません。皮膜の均一性も同等で、複雑な形状でも素材のあらゆるところにメッキ皮膜が同じ厚さで覆っています。
酸化処理の過程でピンホールが拡大されやすいことなどが影響し、耐食性は通常のものより少し落ちるものの、例えば電子部品などに用いる分には十分な耐食性を維持します。
なお、黒色無電解ニッケルメッキの耐食性を向上したい場合は、下地に耐食性の高い無電解ニッケルメッキを行っておくことやトップコートを行うことなどが有効です。
黒色無電解ニッケルメッキ皮膜は、酸化処理の影響で、より黒色化された黒色無電解ニッケルメッキ皮膜ほど耐摩耗性は落ちてしまいます。
それでも、一般的な黒色クロムメッキより硬く耐摩耗性の高い皮膜を得ることができます。
耐摩耗性を向上させる方法としては、熱処理やワックスがけなどのトップコートが有効です。
4.黒色無電解ニッケルメッキと他の黒色処理の比較
4.1.黒色無電解ニッケルメッキの優れている点
他の黒色処理と黒色無電解ニッケルメッキの特徴を比較してみます。
最大のメリットは皮膜の均一性で、これは他の方法では実現できません。
この性質を利用して、精密な形状が求められる機械部品などに使用されることも多いです。
また、さまざまな素材に適用することができ、他の製品では不可能な樹脂製品などへのメッキも可能です。
黒色の種類としては、ツヤのあるものからツヤ消しのものまでさまざまなものにも対応することができます。皮膜の硬度も高く、耐食性も十分に得られることは、前に述べたとおりです。
環境面を考慮した場合、一部の黒色処理はRoHS指令の規制に抵触するおそれがある一方、黒色無電解ニッケルメッキはその心配がなく、環境対応型の方法と言えます。
4.2.黒色無電解ニッケルメッキの欠点
黒色無電解ニッケルメッキにも欠点はあります。
一つは薄膜の処理対応ができないことです。
黒色無電解ニッケルメッキの皮膜は概ね5μm以上となります。
また、実際に黒色なのは皮膜全体ではなく表層0.2μm程度である点も挙げられます。
皮膜自体は硬いものの、この0.2μm分に傷がついてしまうと、シルバーの下地が見えてしまいます。
5.まとめ
さまざまな黒色処理について紹介し、特に黒色無電解ニッケルメッキについて詳しく解説しました。
以下はそのまとめです。
光の反射防止などの機能性や意匠性の目的で、黒色処理が有効です。
黒色処理には様々な種類がある。
黒クロムメッキやクロメート処理といった黒色処理は六価クロムを使用する場合があり、環境的観点からRoHS指令の規制に抵触するかどうかの注意が必要である。
黒色無電解ニッケルメッキはRoHS指令の規制にも抵触する心配がなく、環境対応型の黒色処理である。
黒色無電解ニッケルメッキは皮膜が均一なため、複雑な形状であっても対応することができ、機械部品などへも適用できる。
黒色無電解ニッケルメッキを含め、黒色処理をご検討中のお客様は是非お気軽にご相談ください。
6.当社における黒色無電解ニッケルメッキの対応について
当社にて黒色無電解ニッケルメッキの対応をしております。
アルミ素材、鉄素材、銅素材、樹脂素材などへの処理が可能です。
反射防止が目的であれば、ツヤ消しの仕上げで行うことも可能です。
特に素材の形状を維持させての黒色処理であれば、黒色無電解ニッケルメッキをお薦めしております。
なお、黒色クロメート、黒色アルマイト、黒染め、黒色電解ニッケルメッキなど、本記事でもご紹介した他の黒色処理も対応可能です。
黒色クロメートにおいては、六価及び三価クロムどちらも選択いただけますので黒色に関してお気軽にご相談下さい。
お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609
【著者のプロフィール】
1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。
30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。
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