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工業用クロムメッキ
JIS H8615

 

JIS H8615は鉄鋼及び非鉄金属素地上に耐摩耗性などの工業用目的で行った有効面の電気クロムめっきについて規定する。

1.定義

この規格で用いる主な用語の定義は、JIS H0400によるほか、次による。

a)有効面 被覆されているか又は被覆されるべきで、その被覆が主要な性能及び外観に関わる部品の表面。

 

b)ポーラスクロムめっき めっきの表面に、溝または孔を形成させたもの。次の2つのものがある。

1. エッチングタイプ、メッキ後電解的にエッチングを施して多孔性にしたもの。チャンネル、ピンポイント及びインターメジエートタイプがある。

2. ナーリングタイプ 素地を機械的に多孔性に加工し、これをめっき面に反映させたもの。

c)多孔率 ポーラスクロムめっき面に任意の面積内において、溝または孔の占める面積の割合を百分率で表したもの。(参考:特殊な用途に対して、普通のクロムめっき以外のクロムめっきが指定される場合がある。)

​1.1. 割れなしクロムめっき 

多少柔らかいがもろくなく、基本的に割れがないクロムめっきである。このため、普通クロムめっきより良好な耐食性を示す。このめっきは、一般に25μm以上には厚くせず、また研削による仕上げを施さず、さらに高荷重の加わる面には用いられない。このクロムメッキに熱処理を施すと耐食性は低下する。

1.2. ポーラスクロムめっき

油の保持能力を改善するため、機械的、化学的または電気化学的に多孔化したクロムめっきである。多孔性の程度、種類(例えば、チャンネルないしポイント)及び受入基準の測定法は指定される。

1.3. クラッククロムめっき

マイクロクラッククロムめっきは、有効面全面において、どの方向に対しても1cm当り250以上の不可視的な割れが存在するマイクロクラック模様を作っためっきである。また、マイクロクラッククロムめっきは、1cm当り250以下のクラックをもつ。クラッククロムめっきの硬さは、一般に普通クロムめっきの硬さと同じであり、その構造上、油の保持が容易である。マイクロクラックは、下地にニッケルめっきを施した場合には、マイクロクラッククロムより防食性が高い。

1.4. 二重クロムめっき

​通常、割れなしクロムめっきを下地めっきとし、その上に普通クロムめっきを施したものである。そのため、硬さは普通クロムと同じであるが、防食性は高い。

2.メッキの記号

​めっきの記号は、クロムめっきの元素記号Crの前に工業用を表す記号Iを付けて表すほか、

JIS H0404及び表1による。

表1 メッキ前後の加工方法の記号

備考1.めっき前後に2種類以上の加工を施した場合、加工の順に左から右に各記号をコンマで区切って示す。

備考2.めっきの最終表面粗さは、JIS B0601による。

3.品質

3.1. めっきの外観

めっきの外観は、8.2によって試験を行い、表面は平滑で、焦げ、こぶなど使用上有害な欠陥があってはならない。ただし、つや消し仕上げ(液体ホーニング、ブラスト仕上げ、ポーラス加工など)のものについては、必ずしも平滑でなくてもよい。

3.2. めっきの表面粗さ

めっきの表面粗さは、この品質を特に重視する用途に対してだけ適用し、その品質は受渡当事者間の協定による。

 

3.3. めっきの最小厚さ及び許容差

めっきの最小厚さ及び許容差は、この品質を特に重視する用途に対してだけ適用し、厚さ試験によって試験を行い、その品質は受渡当事者間の協定による。

 

3.4. めっきの多孔率

ポーラスクロムめっきの多孔率は、この品質を特に重視する用途に対してだけ適用し、多孔率試験によって試験を行い、その品質は受渡当事者間の協定による。

 

3.5. めっきの密着性

​めっきの、密着性は密着性試験によって試験を行い、めっきの剥離または膨れがあってはならない。

 

3.6. めっきの硬さ

めっきの硬さは硬さ試験によって試験を行い、ビッカース硬さ750以上とする。ただし、用途によってはビッカース硬さは、受渡当事者間の協定によってもよい。

 

3.7. めっきの耐摩耗性

めっきの耐摩耗性は、この品質を特に重視する用途に対してだけ適用し、耐摩耗性試験よって試験を行い、その品質は受渡当事者間の協定による。

 

3.8. めっきの耐食性

めっきの耐食性は、この品質を特に重視する用途に対してだけ適用し、耐食性試験よって試験を行い、その品質は受渡当事者間の協定による。

4.素地

めっき前の素地の状態は、めっきの品質に重大な影響を及ぼす。特に素地材料が発注者から供給っされる場合には、発注者は、加工仕様書などに、素地材料に関する情報を示さなくてはならない。

(備考、加工業者が、品物の有効面に肉眼的に見え得る欠陥、すなわち、最終仕上げに有害な、または好ましくない孔、割れ及び皮膜が存在しているかどうかを調べる。もしこれらの欠陥が見つかったならば、めっき工程に乗せる前に発注者に注意する。また、加工業者は肉眼的に観察し得ない表面欠陥でめっきが不良となってもその責任を負わない。)

5.めっき前後の素地金属の処理

5.1. ショットピーニング処理

​疲労強度を向上させる目的でショットピーニング処理が指定されている場合、その条件は、受渡当事者間の協定による。なお、ピーニング強度について特に指定がなければ、付属書1の方法によってピーニング強度を設定する。

 

5.2. 下地めっき

めっきの耐食性を向上させる目的などで下地めっきを行う場合には、そのめっきの種類および膜厚は、受渡当事者間の協定による。

 

5.3. めっき前の応力除去

鋼素地などに対して、めっき前の応力除去が指定されている場合、その条件は受渡当事者間の協定による。

なお、対応国際規格に参考として記載されているめっき前の応力除去のための熱処理条件を附属書3に示す。

 

5.4. めっき後の水素脆性除去

鉄鋼製品などに対して、めっき後の水素脆性除去が指定されている場合には、めっき後少なくとも4時間以内に熱処理によって、水素脆性除去を行う。熱処理条件は、受渡当事者間の協定による。

なお、対応国際規格に参考として記載されているめっき後の水素脆性除去のための熱処理条件を附属書4に示す。

6.試験

6.1.試験片の作製

試験片は、通常、製品から作製する。ただし、めっき製品それ自体を試験片として用いることが液ない場合には、代替試験片によって試験を行う。

代替試験片の作製は、可能な限りめっき部品の作製と同じ材質の素地を用い、同じめっき条件で行わなくてはならない。

6.2.外観試験

外観試験は、目視によって行い、表面の平滑度、密着の程度、焦げ、ピット、こぶ及び著しく不均一なめっきの有無を調べる。(備考 割れの状態及び数を調べるときには、倍率100倍以上の光学顕微鏡などを用いる。)

注1.めっきの平滑度は、素地仕上げの良否に支配されるものであるから、次のa及びbに注意しなければならない。

a. めっきを施す部分の表面は平滑で、鋳巣、刃物傷およびその他の不均一があってはならない。

b. めっき後、仕上げを行わない部品の表面は、めっき後、要求される仕上げ面と、同等またはそれ以上の仕上げをめっき前に行わなければならない。

注2. めっきの密着性が悪い場合は、部分的にめっきが鱗片状に離脱していることがある。また、素地の欠陥によって、剥離を生じることもある。

注3. 一般にめっきは、金属光沢を呈しているものであるから、焦げは試験の対象になる。めっき後研磨して使用するものはこの限りではない。

6.3.厚さ試験

厚さ試験は、原則としてJIS H8501に規定する顕微鏡断面試験方法を用いる。ただし受渡当事者間規定によって、磁力式試験方法、電解式試験方法、触針走査試験方法または次の方法によってもよい。

マイクロメータまたはシリンダーゲージを用いる方法、製品の寸法をJIS B7502、JIS B7515またはこれらと同等以上の精度をもつ測定器で測定し、さらにめっき終了後、同一箇所を測定して、その差をめっき厚さとする。ただし、測定は少なくとも3箇所以上について行う。

注1. 素地研磨を行うものは、研磨後の寸法を基準とし、めっきが両面に有る場合は測定値の1/2とする。なお、めっき後、研磨仕上げを行うものは、めっき厚さを指定する場合は研磨しろを考慮しなければならない。

6.4.多孔率試験

多孔率試験は、ポーラスクロムめっき後、顕微鏡を用いて、めっきの表面またはスンプ法により、セルロイド板に転写した表面状態を倍率100倍に拡大して単位面積当りの孔の面積を求めるかまたは、附属書2による。

注1. 試験に関してポーラスクロムめっき後、仕上げ加工を施す場合には、仕上げ加工完了後、直ちに表面の溝または、孔から遊離異物を除いて清浄にしなければならない。(参考 仕上げ加工後、表面が光の乱反射のため光沢むらを生じる場合がある。)

注2. 薄いセルロイド板(厚さ0.1~0.3mm)にセルロイドを溶かした酢酸アルミ溶液を塗り、これを被検査物の表面に押し付けて乾燥後、剥ぎ取り、セルロイドに転写された被検査物の表面を顕微鏡下で観察する方法。

​6.5.密着性試験

密着性試験は、JIS H8504に規定する砥石試験方法、曲げ試験方法または引張試験方法のいずれかの方法による。

6.6.硬さ試験

硬さ試験はJIS Z2244によるほか、次による。

硬さ試験は、少なくとも5箇所以上を測定し、その算術平均値をめっき硬さとする。試験荷重は、原則として0.490 3N以上とし、荷重保持時間は15秒以上とする。

なお、測定が困難な場合は、密着性試験の試験片の一部を用いて試験を行ってもよい。

a)試験片の試験面は平面であることを原則とし、表面は加熱されないよう、丁寧に仕上げる。

また、ポーラスクロムめっきは、平坦部を測定することが望ましい。多孔率が大で平坦部の面積が小さい場合は、多孔部の部分を除去して測定を行ってもよい。

b)めっきの厚さは、生じたくぼみの対角線の長さの1.5倍以上でなければならない。

c)硬さの数値を表示する場合は次のようにする。

例:試験荷重0.490 3N、保持時間15秒、ビッカース硬さ800の場合、試験荷重0.490 3Nを表す硬さ記号HV0.05を用いて、800 HV0.05/15または800 HV0.05で表す。

6.7.耐摩耗性試験

対摩耗試験は、JIS H8503に規定する砂落とし摩耗試験、噴射摩耗試験、往復運動摩耗試験、平板回転摩耗試験または両輪駆動摩耗試験のいずれかの方法による。

ただし、受渡当事者間の協定によって有効性が認められた他の方法によってもよい。

6.8.耐食性試験

耐食性試験は、JIS H8502に規定する中性塩水噴霧試験方法による。

7.検査

a)めっきは6.試験によって試験を行い、3.品質の規定に適合したものを合格とする。

 

b)試験片は、同一部品のロットからJIS Z9031によって抜き取る。

備考1.検査項目及び試験方法の選択に関しては、受渡当事者間の協定による。

​備考2.試験片の数、検査順序及び検査対象箇所並びに試験片の代替使用は、受渡当事者間の協定による。

8.めっきの呼び方

めっきの呼び方は、JIS H0404による。ただし、素地が鉄鋼の場合には、その元素記号であるFeを省略することができる。なお、めっき前後の加工方法は、表1の記号を用いてめっきの厚さの後に斜線を入れて呼び、最終表面粗さは、JIS B0601に規定する中心線平均粗さ(Ra)をめっき前後の加工方法の( )で呼ぶ。

​例1. 鉄素地上, 工業用クロムメッキ20μm以上, メッキ前のバフ仕上げ, メッキ後のグラインダ研削, メッキ後のバフ仕上げ, 

最終表面粗さ1.6μm

鉄素地上, 工業用クロムメッキ20μm以上, メッキ前のバフ仕上げ, メッキ後のグラインダ研削, メッキ後のバフ仕上げ, 

最終表面粗さ1.6μm

 

​例2. 鉄素地上, 工業用クロムメッキ10μm以上, メッキ前の液体ホーニング

鉄素地上, 工業用クロムメッキ10μm以上, メッキ前の液体ホーニング

 

​例3. 鉄素地上, 工業用クロムメッキ50μm以上, メッキ前のバフ仕上げ, メッキ後のグラインダ研削, メッキ後のバフ仕上げ, 

最終表面粗さ0.8μm

鉄素地上, 工業用クロムメッキ50μm以上, メッキ前のバフ仕上げ, メッキ後のグラインダ研削, メッキ後のバフ仕上げ, 

最終表面粗さ0.8μm

 

​例4. 銅素地上, 工業用クロムメッキ5μm以上, メッキ後のポーラス加工

銅素地上, 工業用クロムメッキ5μm以上, メッキ後のポーラス加工

9.表示

送り状または、納品書に次の事項を表示する。

a) めっきの記号

b) 加工年月日

c) 加工業者名

d) 発注者または、加工仕様書に記載されためっき品質の試験結果

10.発注書または加工仕様書への記載事項

発注者は、発注書、加工仕様に次の項目を記載し、付記事項については、受渡当事者間の協定によって省略してもよい。

a) 基本事項

1. めっきの記号

2. めっきの有効面(図面に指示するか、または印を付けた現物見本を提示する。)

3. 外観(最終表面粗さ、光沢など)(限度見本を提示するとよい)

4. 検査方法

b) 付記事項

1. 素地材料の熱処理の経過

2. 下地めっきのある場合にはその種類と厚さ

3. 必要とするめっき品質とその試験方法

4. 許容できるめっき表面の欠陥の種類、大きさ、範囲および場所

出典:JISハンドブック

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