アルミニウム及びアルミニウム合金の 陽極酸化皮膜
JIS H8601
アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜 JIS H8601は、1983年に第1版として発行されたISO7599:1983,Anodizing of aluminium and its alloys-General specifications for anodic oxide coatings on aluminiumを元に、対応する部分については技術的内容を変更することなく作成した日本工業規格であるが、品質のうち、対応国際規格には規定されていない規定内容(特性及び品質)を日本工業規格として追加した。
適用範囲
この規格は、アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に関する全般的な規格であり、品質及び試験方法を規定する。ただし、この規格は次のものを除く
1.バリヤー皮膜
2.塗装または、めっきの下地皮膜
3.JIS H8603に規定する硬質陽極酸化皮膜
表1 使用環境別試験項目
備考1.色については、着色されたものについて試験を実施する。
備考2.使用環境区分の不明確ま皮膜についての試験項目は、受渡当事者間の協定による。
5.品質
5.1. 外観
皮膜の外観は、有工面上に、キズ、表面上のむら、粉吹きなどの用途上有害な欠陥がないものとする。外観の品質は、必要に応じて受渡当事者間で合意した標準見本または限度見本によって行ってもよい。
5.2.色とその許容範囲
色とその許容範囲は、受渡当事者間の協定によって取り決める。色とその許容範囲の品質は必要に応じて受渡当事者間で合意した標準見本または限度見本によって行ってもよい。
5.3. 皮膜厚さ
皮膜厚さの等級は、平均皮膜厚さ(μm)によって表し、表2に適合しなければならない。
なお、皮膜厚さの等級は、製品の用途及び使用環境などを考慮して選択するが、受渡当事者間で特別な協定が無い限り、表2による。
表2 皮映厚さの等級
備考.定められた平均皮膜厚さの80%に満たさない測定点皮膜厚さがあってはならない。
5.4. 皮膜厚さの等級と主な用途例
皮膜厚さの等級は、製品の用途及び使用環境を考慮して選択するが、受渡当事者間で特別な協定が無い限り、表3による。
なお、用途によって特別な皮膜厚さが要求される場合は、表2に規定する平均皮膜厚さの等級にない平均皮膜厚さを決めてもよい。
表3 皮膜厚さの等級と主な用途例
備考.用途上必要な場合は、受渡当事者間の協定によって平均皮膜厚さの等級に限らず、最低皮膜厚さを取り決めてもよい。
5.5. 耐食性
皮膜の耐食性は、各種の環境に耐える特性で、用途によっては酸性、アルカリ性及び塩水雰囲気などの環境に耐える特性が要求される場合があるが、その品質は表4または表5に適合しなければならない。
注)A種、B種の区分は特性の違いによる区分。
備考.等級AA20以上の皮膜には、起電力式耐アルカリ試験を行い、アルカリ滴下試験を適用しない。
表4 アルカリ耐食性
表5 キャス耐食性
5.6. 耐摩耗性
皮膜の耐摩耗性は、摩耗環境に耐える特性であり、用途によっては摩耗性物質の衝突による摩耗、摺動摩耗及び転がり摩擦などの摩耗環境に耐える特性が要求される場合があるが、その品質は表6のいずれかに適合しなければならない。なお、噴射摩耗試験の耐摩耗性は、導通判定法によることとし、素地が露出するまでの摩耗時間[WJ(T)]で表す
表6 耐摩耗性
注)1μmの皮膜を摩耗するのに要した往復運動の回数
5.7. 封孔度
封孔度は、各種環境に適用した場合の耐食性、耐汚染性などを左右する重要な特性であり、特別な用途として封孔しない皮膜が要求される場合及びAA3を除き、表7のいずれかに適合しなければならない。
表7 封孔度
注3. 有機染料皮膜及び電解着色皮膜で暗色の皮膜は、この試験を適用しない。
注4. 皮膜厚さ20μmに対する値に修正したアドミッタンス値。
電解着色皮膜及び有機染色皮膜については、この値が得られないことがあるので、受渡当事者間の協定による。
備考1. 封孔度の仲裁方法
染料吸着試験またはアドミッタンス測定試験において封孔度が論争となる場合は、仲裁方法としてJIS H8683-1のりん酸-クロム酸水溶液浸せき試験によって試験し、その皮膜の封孔度は質量減が0.03g/dm2以下であればよい。
備考2. りん酸-クロム酸水溶液浸せき試験において素地の露出があってはならない。
5.8. 変形によるひび割れ抵抗性
皮膜の用途によっては、皮膜が応力を受けて変形し、ひび割れが発生することがある。
このような用途に対しては、皮膜の変形による耐ひび割れ性が要求されることがあるが、その場合必要な品質は受渡当事者間の協定による。
5.9. 色の促進耐光性
着色された皮膜は、実際の使用環境で、光、紫外線、熱などの作用により色の変化が起こる。
色の堅ろう度は、このような色の変化に対する抵抗性をいう。着色皮膜の光堅ろう性度は、使用環境と同等の条件下で暴露して確認しておくことが望ましいが、品質管理目的では、短時間で評価する必要があるため、光堅ろう度または、紫外光堅ろう度促進試験を行って評価する。
5.10. 着色皮膜の光堅ろう度
着色した皮膜の光堅ろう度は、主に可視光を照射して色の堅ろう度を評価する方法である。用途によって着色皮膜の耐光堅ろう度が要求される場合、次のとおりである。
屋内製品・・・・5以上
屋外製品・・・・9以上
5.11. 着色皮膜の紫外堅ろう度
着色した皮膜の紫外堅ろう度は、主に紫外線を照射して色の堅ろう度を評価する方法である。用途によって着色皮膜の紫外光堅ろう度が要求されることがあるが、その品質は受渡当事者間の協定による。
なお、建築用の着色皮膜に対して短時間の暴露によって品質の評価ができるので、生産管理に適している。
5.12. 鏡面光沢度
鏡面光沢度は、皮膜表面の鏡面光沢特性で、皮膜表面から鏡面反射光と基準面(屈折率1.567のガラス)からの鏡面反射光との比で表される。用途によって皮膜の鏡面光沢特性が要求されることがあるが、その品質は受渡当事者間の協定による。
5.13. 写像性
皮膜の写像性は、皮膜表面に対面する物体の像を写す皮膜表面の特性で、用途によって皮膜の写像性が要求されることがあるが、その品質は受渡当事者間の協定による。
なお、皮膜表面に筋目(方向性を持つ凹凸)がある場合は、この筋目に対する直角方向と平行方向で写像性が異なる。
5.14. 視感測定法
写像性を評価する方法としての視感測定法は、試験面に映し出されたチャートスケールの像の形態を目視によって観察し、写像性を調べる方法である。
5.15. 機器測定法
写像性を評価する方法としての機器測定法は、測定面からの反射光を移動する光学くし(櫛)によって正反射光と拡散反射光に分けて、その光量を測定し、全反射光に対する正反射光の比で写像性を求める方法である。
5.16. 絶縁耐力
皮膜の絶縁耐力は、皮膜の交流電圧に耐える能力で、用途によって皮膜の絶縁性が要求されることがあるが、その品質は、受渡当事者間の協定による。
5.17. 連続性
皮膜の連続性は、皮膜厚さ5μm以下の薄い皮膜の連続性を表す特性で、皮膜表面にキズがある場合、キズが素地金属に達した欠陥を見分けることができる。用途によって皮膜の連続性が要求されることがあるが、その実施は受渡当事者間の協定による。
5.18. 皮膜質量
皮膜の質量は、皮膜の質量による表示が要求される場合に試験する。その品質は受渡当事者間の協定による。この方法は銅含有率が6%以上のアルミニウム合金には適用しない。
なお、皮膜の見掛け密度が得られている場合は、おおよそ皮膜厚さを計算によって求めることができる。
6.試験通則
6.1. 試験片採取方法
試験片は製品の有効面から採取する。ただし、製品から試験片を採取することができない場合は、これに代わる試験片によってもよい。
代用試験片は製品を代表できるものでなければならない。
6.22. 受入試験
受入試験は用途に応じた特性及び品質を考慮し、受渡当事者間の協定によって実施する。
3. 管理試験
管理の目的のための試験は、生産者が特性及び品質を考慮して適合する試験方法を選択し、実施する。
7.試験
7.1. 外観及び色とその許容範囲に関する試験
皮膜の外観及び色とその許容範囲に関する試験は、通常、受渡当事者間の協定によって定められた距離から拡散昼光の下で行う。人工光源の下で行う場合はの照度は600 lx以上とし、光源はJIS Z9112に規定するD65標準光源または、演色AAAランプを用いる。背景は、無光沢の黒、灰色などの無彩色であることが望ましい。
なお、受渡当事者間で合意した標準色見本または限度見本で照合する場合は、通常、それらを同一平面に保持し、照明用拡散光源は検査者の後ろに置き、検査の方向が常に同じであるようにして判定する。
注)拡散昼光とは、日の出3時間後から日の入り3時間前までの日光の直射を避けた北窓からの光をいう。
7.2. 皮膜厚さ試験
皮膜厚さ試験は、次のいずれかによる。
顕微鏡断面試験方法(JIS H8680-1)
渦電流式測定法(JIS H8680-2)
スプリットビーム顕微鏡測定法(JIS H8680-3)
皮膜質量測定法(JIS H8688)
ただし、有効面における測定位置及び測定数は受渡当事者間に協定による。
有効面における測定位置は接点から5mm以内及び鋭いエッジの近傍を除くものとする。
備考.皮膜厚さにおいて論争が生じた場合は、顕微鏡断面測定方法によって行う。ただし、皮膜厚さ5μm未満の皮膜は、皮膜質量測定法で測定し、単位面積当りの皮膜の最小質量を受渡当事者間の協定によって採用する。
7.3. 耐食性試験
皮膜の耐食性試験は次のいずれかによる。
アルカリ滴下試験(JIS H8681-1)
起電力式耐アルカリ試験(JIS H8681-1)
キャス試験(JIS H8681-2)
酢酸塩水噴霧試験(JIS Z2371)
中性塩水噴霧試験(JIS Z2371)
ただし、原則として皮膜厚さ5μm以下の皮膜には、アルカリ滴下試験方法及びキャス試験方法を適用しない。
7.4. 封孔度試験
封孔された皮膜の封孔度試験は次のいずれかによる。
染料吸着試験(JIS H8683-1)
リン酸ークロム酸水溶液浸せき試験(JIS H8683-2)
アドミッタンス測定試験(JIS H8683-3)
7.5. 変形によるひび割れ性試験
皮膜の変形によるひび割れに対する抵抗性を調べる試験はJIS H8684に規定する変形によるひび割れ性試験による。
7.6. 色の促進耐光性試験
着色した皮膜の色の堅ろう度試験は次のいずれかによる。
光堅ろう度試験(JIS H8685-1)
紫外光堅ろう度試験(JIS H8685-2)
7.7. 鏡面光沢度試験
皮膜の鏡面光沢度試験はJIS Z8741に規定する鏡面光沢度測定方法による。
7.8. 写像性試験
皮膜の写像性試験は次のいずれかによる。
視感測定法(JIS H8686-1)
機器測定法(JIS H8686-2)
7.9. 絶縁耐力試験
皮膜の絶縁耐力試験は、JIS H8687に規定する絶縁耐力試験による。
7.10. 連続性試験
皮膜の連続性試験は、JIS H8689に規定する連続性試験による。
7.11. 皮膜の質量測定試験(表面密度)
皮膜の質量測定試験は、JIS H8688に規定する皮膜の単位面積当りの質量測定試験による。
8.検査
皮膜の検査は、特性及び品質項目に関して受渡当事者間による協定で合意した品質項目に対して試験で規定した試験を行うものとする。
なお、受渡当事者間の特別な協定がない場合に限り、使用環境別試験項目に基づき試験を行い、特性の規定に合格しなければならない。
対象となる試験片のサンプリング方法及びロットの大きさは、処理施設の規模、製品の種類、大きさ、数量などを考慮して定める。
備考.生産現場での皮膜厚さ管理方法として、平均皮膜厚さの維持が可能な最低皮膜厚さが予め求められている場合に限り、最低皮膜厚さ管理方式を採用してもよい。
9.皮膜の呼び方
皮膜の呼び方は、皮膜の等級及び品質項目の記号の順による。ただし、受渡当事者間の協定によって品質項目の記号を省略することができる。
表8 品質項目の記号
例1. 等級AA15 キャス耐食性及び耐摩耗性(噴射摩耗試験)の皮膜
AA-15・Lc-WJ(T)
AA-15(省略した場合)
例2. 等級AA10 アルカリ耐食性(起電力式耐アルカリ試験)B種、耐摩耗性(砂落とし摩耗試験)の皮膜
AA-10-B・Kc-WRF
AA-10-B(省略した場合)
例3. 等級AA6 アルカリ耐食性(アルカリ滴下試験)A種、耐摩耗性(砂落し摩耗試験)の皮膜
AA-6-A・KS-WRF
AA-6-A(省略した場合)
例4. 等級AA3 封孔度(りん酸ークロム酸水溶液浸せき試験)の皮膜
AA-3・SP
AA-3(省略した場合)
10.表示
送り状などに次の事項を表示する。
a. 皮膜の等級
b. 製造番号
c. 加工業者またはその省略
出典:JISハンドブック